ボクの住む街でも緑色の電動キックボードを見かけるようになった。
何かと嫌われがちなこのキックボードだけども、ボクはそんなに嫌いではない。どちらかというと好きだ。乗ったことはないけれど。なんでかというと、実際のところどれくらい危険性や事故率があるのかはわからないけれど、単純に質量とスピードから考えて自動車よりも殺傷力があるとは思えないから。忘れがちだが、自動車というのは誕生してからこの方人間を殺し続けている大変危険な乗り物であって、このような移動手段の存在を許しているならキックボードくらいで騒ぐことはないのではないか。キックボードを轢いてしまいそうで危険だと言うけども、それはキックボードが危険なのではなく自動車が危険なのだ。あと1つ理由があって、道路にはいろんなものがあったほうがおもしろいから。 〈箱〉に輪っかをつけただけの単純なかたちだけでなく多種多様なかたちをしたモノがあったほうが道路が楽しい。
自動車の危険性と多様なビークルの楽しさを教えてくれるのがマッドマックスシリーズだったけれども(マッドマックスシリーズは基本的にクルマに乗る人間は自殺志願者として描かれる―「おれはナイトライダーだ! 燃料噴射装置付きの自殺マシーンだ! 」/ウォーボーイズたちは出陣前に「カミカゼ!」と叫ぶ)、自動車ではなくキックボードにフィーチャーした映画がもうすぐ公開される。阿部公房原作・石井岳龍監督の『箱男』だ。
公開は8月23日だけど、たまたま新宿に行く用事があったときにちょうどピカデリーでジャパンプレミアをやっていたので飛び込みで参加した。
何者かに狙撃され負傷した箱男”わたし”は病院に駆け込む。その病院で助手を務め、箱男を誘惑する謎の女・葉子(白石彩奈)。彼女がキックボードを日々の移動に使っているのだ。
なぜキックボードなのかはいまいちよくわからないが、原作にはない映画オリジナル要素。アクションを見せることのできる映画ならではの描写で、箱男(永瀬正敏)のドタドタした走りと葉子の浮遊感あるキックボードの移動の対比がなんともおもしろかった。
そう、箱の中に閉じこもった男についての映画なのに、この映画の見どころはアクションなのである。「ヒーローか、アンチヒーローか」という箱男ってそういう話だったけ?と首を傾げたくなるキャッチコピーがついているけれど、仮面ライダー(特に『シン仮面ライダー』)を彷彿とさせるようなアクションを箱男がしていて観客を驚かせてくれる。
監督は、舞台挨拶で、「娯楽作品にしてくれ」と原作者の安部公房には言われた、と語っていた。
そういう意味で、映画『箱男』はあの手この手で観客を楽しませようとしてくれる大変素晴らしい娯楽作品になっていると思う。
ひとに映画をおすすめするときに「映画館で観るべき」という文句を使うのは苦手だ。理由は2つあって、 1つ目はボクは鈍感なので大抵の映画は、それこそDUNEクラスの特撮映画でない限り映画館で見ても家で見てもそんなに感じが変わらない気がするから。流石にスマホやパソコンの画面で見ると見劣りするかもしれないけれど、家のテレビで見たからといって映画を十分に楽しめないということはそうそうない。 2つ目の理由は、1つ目の理由と矛盾しているように聞こえるかもしれないけれども、すべての映画は映画館で見たほうがいいに決まってるから。映画は映画館で観るために作られてるんだし、家よりも映画館の設備のほうがいいに決まってるのだから。だから、「映画館で見るべき」というのは、多くの場合何も語っていないのと等しい。
というわけで、「映画館で観るべき」とはあんまり言いたくないんだけど『箱男』については映画館で見たほうがいいと言っておく。というのも、映画館で観ることで最大の効果を発揮するギミックがあるから。まあ、【箱男を映画でやる】といった時点でちょっと考えればすぐに思いつく発想なのでそこまでの面白味があるかといわれたら微妙ではあるんだけれど、しかし箱男を映画でやるときにやるべきことを、きっちりとやるところまでやってくれて、そして確実な効果を発動する嬉しさがあるから、そういう「娯楽作」だから、映画館で鑑賞するのがおすすめです!(シネマハスラー風に)